「ブスな私」さえ直せば、コンプレックスは無くなる? 専門家の答えは(前編)

自撮り画像を目にするたび、「もう少し小顔だったら」とため息が出る。
どんなにダイエットやメイクを頑張っても、SNSで輝いているあの人には届きそうにない。

「外見を変えれば、この苦しみから解放されるはず」

そう思うのは、決しておかしなことではない。実際、見た目が変わることで、人からの扱われ方も変わることがある。しかし、それでも焦燥感が募るのは、なぜだろう。
遠山怜 2026.04.10
誰でも

本稿では、そんな見た目と心の問題を専門的に扱う、精神科医・松永寿人(兵庫医科大学  精神科神経科学講座 主任教授 )さんに話を伺う。

理想に近づこうとしているのに、苦しさが消えないのはなぜなのか。前編・後編に分けて、その理由に迫る。

***

「これって気にしすぎ?」どこからが“要治療”なのか

ーー(筆者)誰でも自分の見た目を気にしたり、欠点に悩んだりすると思います。こうした「よくある悩み」と、「治療が必要な悩み」は、どう違うのでしょうか。

松永寿人さん:兵庫医科大学 精神科神経科学講座 主任教授。強迫症や不安症の研究、治療の第一人者。共著に『強迫症を治す』(幻冬舎新書)、監修に『強迫症治療マニュアル』(金剛出版)など。

松永寿人さん:兵庫医科大学 精神科神経科学講座 主任教授。強迫症や不安症の研究、治療の第一人者。共著に『強迫症を治す』(幻冬舎新書)、監修に『強迫症治療マニュアル』(金剛出版)など。

松永:誰だって、自分の容姿に「もっとこうだったらいいのに」と思うことはあるでしょう。出先で鏡を見た時、ふとそう思うことがある。ですが、多くの場合、そうした考えはすぐに忘れてしまいます。

しかし一方で、自分の欠点のことばかり考えてしまって、何度も鏡で確認したり、ひどく醜いと思い悩んでしまうことがあります。

関心のほとんどが見た目の問題に向けられ、普通に日常生活を送ることが難しい。こうした状態は、治療を考える一つのポイントだと思います。

たとえば、外出の準備に3時間以上かかる、一日中、鏡の前から離れられない、仕事や学校を休んでしまう——こうした状態が続く場合、それは単なるコンプレックスとは言えません。

こうした状態を、医学上では身体醜形症(body dysmorphic disorder ; 以下、BDD)と呼び、精神疾患の一つとして定義されています。

(脚注)身体醜形症:強迫症の一種。実際には存在しない、または些細な外見上の欠陥に囚われるあまり、鏡の確認、身づくろいを繰り返し行うなど、日常生活に支障を及ぼす精神疾患。青年期に発症することが多く、有病率は人口の約2~3%と言われている。

「ブスだから苦しんで当然」?

ーー(筆者)外見の悩みで日常生活に支障が出るレベルということですね。

ですが、当事者からは、「だってブスなんだから悩んで当然じゃん!」と反論されそうな気が。実際、容姿の良し悪しで人の扱いは変わったりするので、「気にしすぎ」と言われても納得できないというか。

松永:実際、患者さんも『私は本当にブスだから悩んでいるんです』と言いますね。『周りは気休めで否定している』『何も知らないくせに』と。

ですが、患者さんが訴えている「醜さ」は、医者や周囲から見た印象と、本人の受け止め方との間に、大きなズレが見られることが少なくありません。

確かに、外見の違いが人の評価を左右することはあります。ですが、本人から見えているものと、第三者からの見え方に大きな乖離があるなら、『欠点があるのだから悩んで当然』だけでは説明し切れないと思います。

ーー(筆者)確かに自分が気にしているほど、他人は気にしてないことはありそうですが…。

松永:一番の問題は、外見の悩みにより、日常生活に支障をきたしているということです。いわゆる病的な状態では、日常生活全般にその影響が現れます。

人に顔を見られるのが苦痛で、マスクが手放せない。肌荒れを気にして、出かける予定をキャンセルする。美容整形のために借金を重ね、日常生活もままならなくなる。患者さんは自分は醜いと塞ぎ込み、鏡を見ては泣いている。

仮に患者さんの訴えが事実だったとしても、こうした状態であることはやはり問題だと思います。

一般的に、「たかが容姿の悩み」と軽く考える人もいますが、患者さんが感じている精神的苦痛や、生活への影響度はかなりのものです。世間の人が思うよりも、もっと深刻な問題だと思います。

ーー(筆者)それはそうですが、悩んでいる人にとっては、そう簡単に捉え方の問題だとは思えないのでは。

松永:はい。まさに、BDDの特徴は、患者さん本人は心の問題だと思っていないところにあります。ですから、通常、患者さんは皮膚科か美容外科に行って、何らかの処置を受けます。

例えば、一重で悩んでいる患者さんなら、二重にする手術を受ける。二重になったら、今度は二重の幅が気になってくる。再手術したら次は左右差が気になる、と一向に終わりが見えない。

患者さんは、現状を改善しようと病院を訪れる。そこで、患者さんの訴えに疑問を持った医者から、精神科の受診を勧められるというケースが多いです。

本人が自発的に精神科を受診するのは、かなり稀な病気です。あとは、手洗いや戸締りの確認がやめられなくて精神科を受診して、容姿へのこだわりが発覚するケースもあります。

理想に近づくほど、なぜか満足できなくなる

ーー(筆者)でも、美容に励むことで、コンプレックスは徐々に解消されるのでは?見た目が改善されれば、ちょっとは生きやすくなる気がします。

松永:実は、そこが一番の問題なのです。実際にはやればやるほど、もっと細かいところが気になってくる。理想を目指して行動するほど、コンプレックスがより強化されていくという特徴があります。

たとえば、摂食障害の患者さんは、体重の増加を非常に気にしています。体重が40kg台の患者さんは、100g単位の増加を『太った』と感じる。では、体重20kg台の患者さんはどうかというと、1gの増量でも許容できなくなる。

つまり、「気にする → 修正する → さらに細部が気になる」というループに入り、「許容範囲」がどんどん狭くなり、ゴールが遠くなっていく。

最初は『これさえ変われば』と思っていたのに、いつの間にか『こうでなくては』と思うようになり、何度手術しても自分は醜いというイメージから離れられない。

「気になる」と「気が済まない」

ーー(筆者)つまり、「気にする」こと自体がこだわりを強化してしまう、ということですか?

松永:全員が全員、強迫化することはありません。ですが、ごく一部の人は、「気になる」程度では済まなくなってくる。

たとえば、世の中に綺麗好きな人って結構いますよね。不特定多数の人が触った電車の吊り革が持てないとか、いつも除菌シートを持ち歩いているとか。こうした潔癖症は、日本人のうち一定数が該当すると言われています。

しかし、潔癖症の人のほとんどは、それで日常生活に困ることはありません。『気にはなるけど、まあこんなものかな』で終わる。ですが、一部の人はそこでひと安心とはならない。常に汚れを気にして、こまめに除菌しないと気が済まなくなってくる。

見た目の問題もこれと同様です。BDDは、見た目を対象にした“強迫症状の一種”と考えると、理解しやすいでしょう。憧れからダイエットや美容に取り組みはじめて、多くの場合は美意識が高い程度で止まるけれども、一部の人はさらにこだわりを強くしていく。

「キレイになりたい」より「納得できない」

ーー(筆者)本人が目指しているのは、“キレイになること”なんでしょうか?

松永:特に、BDDの患者さんは「自分が納得できるか」を重視している気がします。本人の中に、何らかの理想がある。それは特定の芸能人だったり、あるいは複数の理想を掛け合わせたイメージだったり。

患者さんは、理想に届いていない今の自分が許せないんですよ。だから、この状態を何とかしようと行動したくなる。

特に、最近は画像の加工技術が発展して、より魅力的な自分の姿を目にする機会も多い。加えて、テレビCMや街頭広告でも、AIで作られた理想的な顔であふれている。こういった世の中の変化も、患者さんの納得度に影響していると思います。

なぜ一部の人は、こだわりが強まってしまうのか

ーー(筆者)「美意識が高い」で踏みとどまれる人と、そうでない人の違いはなんでしょうか?

松永:なぜ一部の人が、強迫的なこだわりに発展してしまうのか、原因は解明されていません。ただ、研究調査により、いくつかの要因が発症に関係しているとわかっています。

一つは、虐待の影響です。

たとえば、歌手のマイケル・ジャクソンは、専門家の間ではBDDの可能性があるとされています。彼の容姿は、幼少期から後年にかけて大きく変化し、整形手術を繰り返し受けていたと思われます。特に、鼻は黒人種特有のしっかりした鼻から、年々、細く尖った鼻になっていく。

どうやら、彼は子どもの頃、親や友人に、「デカ鼻」とからかわれていたようなんです。ほかにも、親から身体的・精神的な虐待を受けていた。幼少期に「外見が完璧でないと愛されない」と刷り込まれ、それが元で外見に対する執着に発展したのではないか、と言われています。

実際、海外の研究調査では、BDDの患者さんは被虐待率が高いと判明しています。あとは、外見に関連したいじめや差別の経験も考えられますね。「人に認められるには、外見が重要なんだ」という考えが、強迫化につながっている可能性がある。

ーー(筆者)見た目で嫌な思いをした分、「容姿が良ければ」と思ってしまうのはわかる気がします。

松永:あとは、発達障害特性がBDDに関連していることもわかっています。自閉スペクトラム(ASD)傾向がある人は、特定のことに関心を持ちやすいのですが、その関心が外見に及ぶこともある。

(脚注)自閉スペクトラム症:神経発達症の一種。先天的かつ脳機能の特性により、興味・関心の幅が限定され、反復的な行動を好む。非言語的な意味合いや空気を察知することが苦手なため、対人関係に難しさを感じやすい。

発達特性により、外部刺激に過敏でストレスになりやすい場合、特定のことに集中したり、確認することが、ある種の安心装置になっている可能性があります。

ただ、その安心のための行動が、かえって彼らを苦しくさせてしまう。やればやるほど、安心できるまでの道のりが険しく、遠くなってしまうのです。

気にすればするほど、かえってコンプレックスは深まりやすい——。そうだとしたら、この苦しさとはどう向き合えばいいのか。後編では、そのヒントを探る。

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