「見た目が気になる」はやめなきゃダメ?価値観を“変えない”ヒントとは(後編)

後編は、前編に引き続き、精神科医・松永寿人さん(兵庫医科大学 精神科神経科学講座 主任教授 )に話を伺い、「美容を頑張っているのに、なぜかつらい」の正体に迫る。

見た目の悩みに、「気にしなければいい」というアドバイスはつきもの。価値観や理想を無理に否定せずに、苦しさを和らげる方法はあるのか。心と見た目の問題を専門的に扱う松永さんに、治療の考え方を聞いた。
遠山怜 2026.04.17
誰でも

「気にしすぎ」は一番の禁句

ーー(筆者)容姿に悩む患者さんに、治療では何をするのでしょうか?やはり、「気にしすぎですよ」と言われるのでしょうか。

松永寿人さん:兵庫医科大学 精神科神経科学講座 主任教授。強迫症や不安症の研究、治療の第一人者。共著に『強迫症を治す』(幻冬舎新書)、監修に『強迫症治療マニュアル』(金剛出版)など

松永寿人さん:兵庫医科大学 精神科神経科学講座 主任教授。強迫症や不安症の研究、治療の第一人者。共著に『強迫症を治す』(幻冬舎新書)、監修に『強迫症治療マニュアル』(金剛出版)など

松永:一般的に、容姿の悩みがある人に、『気にするほどじゃないですよ』とか、『十分、キレイですよ』と言ってしまいがちだと思います。でも、それは一番言ってはいけないんです。

患者さんは、もうすでに、いろんな人からそう言われていますから。患者さんが、『私はブスだ』という度に、家族や友人から否定される。

もちろん、周囲の人は自分から見た感想を、良かれと思って伝えている。けれども、本人にとっては、見た目の問題で苦しんでいることを、否定されたと感じてしまう。私はこんなに悩んでいるのに、どうして誰もわかってくれないのかと、孤立感に苛まれている。

ですから、僕は患者さんの考え方や価値観は一切、否定しません。『あなたはそれで苦しんでいるんですね』と、受け止めます。その「醜さ」が周囲にどう見えるかは別として、それによって、患者さんがひどく悩み、苦しんでいるのは事実ですから。

実際、生活に支障が出たり、人間関係にもかなりの苦痛を感じている。ですから、治療することで、まずは日常生活の制約や不自由さを、ちょっとでも良くするお手伝いをしたい、と患者さんにお伝えしています。

「早くなんとかしないと」を紐解く

ーー(筆者)まずは患者さんの話を聞いて受け止めると。

松永:はい。まずは、患者さんが『この人と話してもいいかな』と思える関係を作ること。

そして、患者さん自身が今の状態を少しでも良くしたいと思えたら、まずは薬物療法から入ります。患者さんの『私はブスだ』という訴えの裏側には、『早くなんとかしないと』という強い焦りや危機感があるんです。

たとえば、地震が続いた時、『また揺れるのでは』とそわそわしたり、気が立ってしまうことがありますよね。こうした切迫した危機感に襲われている時、リラックスしましょうとか、別のことを考えましょうと言われても、ちょっと難しい。

ですから、まずは、この“差し迫った感じ”を少しゆるめる必要があります。見た目へのこだわりなど、強迫性の問題に対応する第一選択薬はSSRIです。

(脚注)SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬):うつ病や不安症など幅広い治療で使われており、不安やこだわりの軽減を目的に処方されることがある。BDDに対しては適応外使用となるため、処方の可否は医師との相談が必要。

ーー(筆者)薬を服用して何か変わるのでしょうか?

松永:実は、BDDの患者さんに、SSRIはかなり効くことが多いです。服用することで、今までよりこだわりの程度が軽くなる。

たとえば、1時間に何十回も鏡を見ないと気が済まなかった人が、ほとんど見なくても大丈夫になる。どこに行くにもマスクが外せなかった人が、マスクなしでパッと外に行けるようになる。

薬により、不安感やこだわりが緩和されて、別のことにも目が向くようになる。きゅっと絞られていた視野が広がって、横側や向こうの景色が目に入る感じ。

気持ちにちょっとゆとりが出てきたら、次は行動を抑えていく。強迫系の病気は、行動すればするほど、より細かなことが気になり、不安が高まるという特徴があります。ですから、そのループを断ち切る必要があります。

考え方を変えずに、行動を変える

ーー(筆者)具体的に、何をどう変えるのでしょう?

松永:たとえば、1時間に何十回も鏡を見ていたところを、1時間に2回にしてみましょうとか。外出前の身づくろいに3時間かけていたのを、まずは1時間で収めてみましょう、など。確認行為や身づくろいの回数を減らしてみる。

もちろん、最初は確認したい衝動に駆られたり、落ち着かない感じがします。ですが、続けるうちに焦燥感は減っていきます。すると、今まで確認や準備にかけていた時間がぐんと減る。思いついた時にパッと外出できるし、人に見られても大丈夫になっていく。

私たちの価値観や物の見方は、普段の行動の繰り返しにより形づくられています。ですから、お薬の力を借りて行動を変えることで、物の見方も徐々に変わってきます。

外に出ておしゃれを楽しんだり、人と楽しく過ごしたりすることで、関心や興味の対象もちょっとずつ、変わってくる。『自分は〇〇でないと幸せになれない』と思っていたのが、『まあ、それはそれ』になっていく。

「私は醜い」という自己イメージや、「こういう顔が理想」という価値観は、そう簡単には変わらない。けれども、『あれがしたい』『これが楽しい』と関心の幅が広がることで、自分の中の重要度がグッと下がる。

『芸能人の〇〇が理想』というのは変わらないけど、自分が〇〇に似てなくても、そこまで気にならなくなる。

ーー(筆者)理想や価値観を無理に変えるのではなく、それに縛られすぎない状態を取り戻していく、ということですね。

松永:そうです。実際、治療が進む中で患者さんの関心も変わってきます。

最初は、私は目が変だと、目ばかり気にしていた患者さんが、『今日は買い物に行ってきた』と楽しそうな顔で話してくれる。だんだんと、診察室で話す事柄も、顔や体型のことより、趣味とか日常生活のこととか、そんな話題になっていく。

BDDは、適切な介入をすれば、ちゃんと良くなる病気です。また、鏡の確認などの反復行動をしない状態が定着すれば、再発もしにくいと言われています。行動習慣がキープできていれば、いずれ薬も減薬し、治療は終了となります。

「心の問題」に気づけない理由

ーー(筆者)ですが、自分で『これは心の問題かも?』と気づくのは、難しそうです。

松永:そうですね。特に最近は、美容医療の広告で『〇〇でないとダメ』とか、コンプレックスを刺激するような宣伝文句が使われている例も見かけます。

加えて、患者さんが相談に行くと、不必要な手術を勧めたり、安易に手術を請け負ったりする。特に、今手術したら〇〇%オフとか、患者さんに決断を迫るような料金体系が設定されていたりする。

こうした状況も、患者さんの判断を鈍らせる要因だと思います。

BDDの発症年齢は10代と言われていますが、治療につながるのは成人期以降がほとんどです。患者さんの年齢層は20代から40代、60代の人もいます。長い間、外見の問題に思い悩んだ末に、ようやく治療にたどりつくことが多い。

BDDは女性だけの問題ではなく、男性の患者さんも少なくありません。男性では薄毛や体格、性器へのこだわりが中心になりやすく、やはり受診先の医療機関で心の問題が疑われることがあります。

「あと少し」が知らせるサイン

ーー(筆者)先生のお話を踏まえると、外見の悩みに縛られている状態で、何度も鏡で確認したり、外科手術に踏み切ることは、推奨されないということでしょうか。

松永:患者さんが、『ここさえ変われば』と鏡を見て悩んだり、外科手術を考えたりする気持ちはよくわかります。実際、僕が診ている患者さんも、過去には美容皮膚科に行ったり、何らかの手術を受けたりしています。

ですが、次々と別の悩みが生じたり、日常生活に不便を感じているようであれば、行動を見直すタイミングに来ているのかな、とは思います。これは、メイクや美容も一緒です。

お化粧したり、肌の手入れをすること自体は何の問題もありません。ですが、メイクの仕上がりが気に入らなくて、何度もやり直しているとか、化粧品を買い込んでしまうとか、日常生活に支障が出ているなら、立ち止まってもいいのかなと思います。

ーー(筆者)もし、専門家に相談したいと思ったら、どこに行けばいいのでしょうか?

松永:まずは、精神科を受診することをお勧めします。ですが、残念ながら、強迫症、特に身体醜形症を診ている医師は非常に少ないのが現状です。

一般的な精神科で、薬物療法やカウンセリングを受けてみて、あまり改善が見られないようだったら、精神科経由で強迫症を専門的に診ている病院や先生に紹介される、というのが一般的かと思います。

ーー(筆者)美容やダイエットは、「そこそこ」で付き合えれば自信につながることもある。一方で、「あと少し」を追い過ぎれば、より深い悩みにもなり得る。改めて、「容姿の悩みから解放される」とは、どんな状態なのでしょうか。

松永:生活機能の回復、と言えるでしょうか。治療によって、症状で圧迫されていた患者さん本来の性格や感性が戻ってくる。

たとえば、僕は患者さんの緊張を和らげようとニコニコしているんだけど、最初、患者さんはそれを『自分のことを笑ってる』と感じやすい。日常の些細な出来事や人の反応を、自分の顔が醜いせいだと紐づけて考えてしまう。

でも、治療していくことで、気持ちのこわばりや不安が減ってきて、だんだんと人の言葉や表情がちゃんと見えるようになってくる。『あ、私を馬鹿にしているわけじゃないんだ』と実感して、リラックスして人と話せるようになる。表情や話し方もぐっと明るくなる。

回復とは、元あった感覚を取り戻すことなんだと思います。

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